琉球新報コラム「八重山の星暦」

2016.02.11 /  2020.02.04

琉球新報コラム 落ち穂(2016年2月11日)
第3回「八重山の星暦」
 
今日は「建国記念の日」。つまり日本の誕生日である。これは初代神武天皇の即位した日に由来し、日本書紀には紀元前660年の旧暦の正月と記されている。その日を新暦に換算し、2月11日と定められた。
祭日に限らず、日本のお祭りや伝統行事のほとんどは、旧暦に基づいている。そのため、今日のような日が巡ってくると、いつも旧暦を意識させられる。
旧暦は月の満ち欠けを基準にし、新暦は太陽を基準としている。どちらも規則正しく空を巡っている天体であるが、夜空を見上げるともうひとつ、規則正しく巡っているものがある。そう、星空だ。
この星空を暦として使っていた独特の文化が八重山諸島にある。八重山には、「星図」という古文書が残っており、農業を中心とした生活に関わりのある星が図で描かれている。また「星見石」という遺跡が今でも残っており、星の位置を見て農作業の時期を決めていた当時の様子を窺い知ることができる。
農業する上で特に大事な星とされていたのがスバル。八重山ではムリカ星と呼ばれ、昔の人は、冬のはじめこの星が5尺の高さにきたら種まきを行っていた。これにまつまる八重山の古民謡「ムリカ星ユンタ」は今でも歌い継がれている。
また、日本本土からは見ることができない、八重山の方言でパイガ星と呼ばれる2つの1等星(ケンタウルス座のα星とβ星)は、夕方真横に並ぶと、稲刈りの時期を知らせ、カツオ漁にでかける目安にもなった。
このように、昔の八重山では、生活の中に星があり、星空がカレンダーの替わりとなって人々の暮らしに寄り添っていた。そのためか、八重山で星を眺めていると、果てしないはずの宇宙が、とても身近なものに感じる。
暦とは、時の流れをつかみ、地球のリズムを知る、人間が生きていく上で必要なものさしである。太陽暦、陰暦とは別に、星を基準にした独自の暦は、まさに「八重山の星暦」とも言うべき知恵であり、貴重な八重山の文化である。
 
星空ツーリズム社代表 上野 貴弘
 
 
 
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